2025年2月6日、国が北海道苫小牧市沖を、工場などから排出されるCO₂(二酸化炭素)を地下深くにためる技術であるCCS(Carbon Capture and Storage)の特定区域に指定する方針を固めたというニュースが報じられました。これは日本の脱炭素社会の実現に向けた大きな一歩であり、今後のCCS推進や企業の環境対策に大きなインパクトを与えると考えられています。
しかし、「CCS」や「特定区域」という言葉自体は聞いたことがあっても、その具体的な意味や仕組みがイメージしづらい方も多いのではないでしょうか。特に、企業の総務部としては、会社全体の環境施策やCSR・SDGs対応などに関わる立場とはいえ、技術的に踏み込んだ知識を持つ機会はなかなか多くありません。
そこで本コラムでは、初心者の方にもわかりやすいように、CCSの基本的な仕組みや苫小牧の取り組み、そして企業の総務部が押さえておきたいポイントを詳しく解説していきます。最後には、脱炭素施策を検討する際の具体的な相談先として「株式会社totoka」もご紹介しますので、ぜひ今後の企業活動や環境対応を計画する際の参考にしてみてください。
- 1. CCSとは?―脱炭素社会における重要技術の概要
- 2. CCSが求められる背景
- 3. CCSの具体的な仕組みとプロセス―「回収」「輸送」「貯留」「モニタリング」
- 4. 苫小牧市が全国初の特定区域指定へ
- 5. 苫小牧市でのCCS実証実験の経緯
- 6. CCSが企業にもたらすメリット
- 7. CCS事業の進め方―特定区域選定から事業公募・許可まで
- 8. CCSとCCUSの違い
- 9. CCS実用化に伴う地域活性化
- 10. CCSの課題
- 11. 脱炭素に向けたその他の取り組み
- 12. 今からできること―情報収集・社内啓発・戦略的検討
- 13. まとめ―苫小牧の動きが日本の脱炭素を加速させる
- 14. 脱炭素相談は株式会社totokaへ
- 15. さいごに
1. CCSとは?―脱炭素社会における重要技術の概要
CCS(Carbon Capture and Storage)とは、主に工場や発電所などの産業活動から排出されるCO₂を回収し、地下深くに圧入・貯留する技術のことです。CO₂は温室効果ガスの一種であり、地球温暖化や気候変動を引き起こす主たる要因と考えられています。排出量削減が急務とされる中、CCSは大気中に放出される前のCO₂を捕まえて、地下に閉じ込めることで排出を「なかったこと」に近づけられる画期的な方法として注目されています。
日本政府は、2050年までにCO₂などの温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にするカーボンニュートラル目標を掲げていますが、産業構造やエネルギー事情から、いきなり化石燃料由来のCO₂排出をゼロにするのは難しい現状です。そこで、再生可能エネルギーの拡大や省エネ、そしてCCS技術などを組み合わせることで総合的に排出を削減する戦略がとられています。

2. CCSが求められる背景
気候変動の深刻化
近年、異常気象や海面上昇など地球規模での気候変動リスクが高まり、二酸化炭素排出削減の必要性が急速に高まっています。国際的にも、パリ協定の採択以降、各国が温室効果ガス排出量削減目標を掲げており、日本もその一員として責務を負っています。
2050年カーボンニュートラル
日本政府は「2050年までに温室効果ガスの実質ゼロ」を宣言し、その具体的なロードマップの中でCCSの活用が大きな柱の一つとされています。すぐに化石燃料を完全に置き換えるのが難しい分野(石油化学、鉄鋼、セメントなど)においても、CCSを使って出てしまうCO₂を回収し、大気に放出しない仕組みを整えることで、実質的な排出削減を目指すのが世界的な潮流です。
3. CCSの具体的な仕組みとプロセス―「回収」「輸送」「貯留」「モニタリング」
CCSを大きく分類すると、「CO₂の分離・回収」「CO₂の輸送」「地下への貯留」「モニタリング」の4つのプロセスに分けられます。
- CO₂の分離・回収
工場や発電所の排気ガスから、CO₂を分離・回収します。ガスのままではなく、圧縮して液体や超臨界状態という気体と液体の中間の状態に変換することが一般的です。 - CO₂の輸送
回収したCO₂を、パイプラインや船舶などの輸送手段を使って、貯留が可能な地点まで運びます。地中の地質構造によっては、陸上よりも海底下のほうが適しているケースも多いです。 - 地下への貯留
石油や天然ガスが何百万年も閉じ込められているような地層が理想的とされ、CO₂を地下数百メートル以上の深い層に圧入します。地質学的な構造が「蓋」の役割を果たし、CO₂が大気中に戻りにくい仕組みです。 - モニタリング
一度注入したCO₂がどのように広がり、地中に安全に留まっているかを監視し続けます。地震などのリスクやCO₂の漏洩が起こらないか、継続的にチェックする体制が必要です。

4. 苫小牧市が全国初の特定区域指定へ
特定区域指定の概要
- 内容:国は北海道苫小牧市沖を、工場などから排出されるCO₂を地下深くに貯留するCCSの“特定区域”に指定する方針を固めた
- 背景:2024年に成立したCCS実用化関連法に基づき、CO₂貯留に適した地域を特定区域に指定し、公募の事業者に許可を与える仕組みの運用が始まった
苫小牧市沖が指定されるのは日本全国で初めてとなり、今後は選定された事業者が掘削調査や試験注入などを行っていく見込みです。
苫小牧市は2010年代から政府主導の大規模実証実験を行ってきた実績があり、CCS先進地域とも呼ばれています。
期待される効果
- 脱炭素の加速化:CO₂の大規模貯留が可能になれば、苫小牧市周辺の工場などにおける排出削減が大きく前進
- 地域経済の活性化:CCS関連の設備投資や研究機関の誘致が進み、新たな雇用やビジネスチャンスが生まれる
- モデルケースとしての役割:全国の自治体や企業がCCS導入を検討する際、苫小牧での事例が参考になる
5. 苫小牧市でのCCS実証実験の経緯
苫小牧市がCCS技術の拠点として注目されるのは、以下のような理由があります。
- 地質条件の適性
苫小牧市沖の海底下には、石油や天然ガスが閉じ込められていた地層と同様の構造があるとされ、CO₂を貯留するための密閉性が高いと見込まれています。 - 実証実験の実績
2016年からは大規模実証プロジェクトを通じて、年間10万トン以上のCO₂を地下へ注入する試みが行われました。この過程で、安全面やモニタリング技術、地震の影響などが検証され、大きなトラブルもなく成功を収めました。 - 行政・産業界の協力体制
苫小牧市および北海道庁、地元産業界、国(環境省・経済産業省)などの協力がスムーズに進んでおり、地域を挙げてCCSへの取り組みを推進している点も大きな特徴です。
こうした要因が重なった結果、苫小牧市は日本のCCSにおける「モデルケース」的存在となり、今回の全国初の特定区域指定につながったと考えられます。
6. CCSが企業にもたらすメリット
企業がCCSを活用する最大のメリットは、CO₂排出量の削減につながることです。特に、化学・製鉄・セメント・電力など、どうしてもCO₂排出が多くなりがちな業種にとっては重要な打ち手です。以下のような点を押さえておくと良いでしょう。
- カーボンニュートラル達成に向けた選択肢
再生可能エネルギーや水素利用、電化など、脱炭素にはさまざまな手段がありますが、CCSは「どうしてもゼロにしきれないCO₂」を閉じ込める最終的な解決策となり得ます。 - ESG投資やSDGsの観点での評価向上
環境(E)への配慮が企業評価に直結する時代です。CCSへの取り組み姿勢を示すことで、投資家や取引先からの評価が高まる可能性があります。 - 将来的な規制や炭素税への対応
近年、排出量取引や炭素税などの導入が進む中、CO₂排出にコストがかかる時代になりつつあります。CCSを利用して排出量を削減できれば、将来的な費用リスクを抑えることにもつながります。 - 社内外へのポジティブなアピール
「環境に優しい企業」であるというブランドイメージは、人材採用や顧客獲得にもプラスに働く可能性が高いです。総務部で社内広報やCSR報告を担当している場合、CCSへの取り組みは大きなアピール要素となるでしょう。
7. CCS事業の進め方―特定区域選定から事業公募・許可まで
2024年に成立したCCS実用化関連法により、以下の流れでCCS事業が進められるようになります。
- 特定区域の指定
国が地質調査をもとに、CO₂の貯留に適した区域を「特定区域」に指定します。 - 公募・事業者の選定
指定を受けた区域でCCS事業を行う事業者が公募され、企画内容や技術力、資金力などの審査を経て選定されます。 - 掘削調査・試験注入
選定された事業者は、さらに詳細な掘削調査を実施し、地層の性質や安全性を確認します。その後、実際にCO₂を少量注入してモニタリングを行い、問題がないか検証します。 - 本格貯留事業の開始
安全性や技術面、経済性がクリアとなれば、大規模なCO₂回収・輸送・貯留がスタートします。長期間にわたるモニタリング体制が組まれます。
今回、苫小牧市沖が「特定区域」第一号となる見通しであり、ここでの事業成果によっては、全国各地へのCCS普及が一気に進む可能性があります。
8. CCSとCCUSの違い
CCSとよく似た言葉として、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)があります。こちらは、CO₂を分離回収して貯留するだけでなく、「有効利用(Utilization)」することも含んだ概念です。
- CCS:CO₂を分離・回収し、輸送して、地下に貯留する
- CCUS:CCSに加えて、CO₂を化学原料や燃料などに再利用する方法を含む
たとえば、CO₂をメタノールやプラスチック原料に変換する技術、コンクリートに混ぜ込んで強度を高める技術などが実用化に向けて研究されています。企業にとっては、CO₂をただ捨てるのではなく、新たな付加価値を生む資源として活用できる余地があるのです。
9. CCS実用化に伴う地域活性化
苫小牧市をはじめとするCCS導入地域には、以下のような地域活性化効果が期待されています。
- 産業クラスターの形成
CCS関連の技術開発やプラント建設、メンテナンスなど、多様な企業が参入することで新たな産業集積が生まれます。 - 雇用創出
掘削調査や設備建設、モニタリングなど、大規模かつ長期的なオペレーションが必要なため、専門技術者から一般事務スタッフまで幅広い職種の雇用が見込まれます。 - 地域ブランドの向上
「脱炭素先進地」としての認知度が上がり、投資や観光などの面でもプラス効果が期待されます。環境に配慮した企業や大学、研究機関も集まりやすくなるでしょう。
10. CCSの課題
CCSには大きな可能性がある一方、以下のような課題も指摘されています。
- 技術面の成熟度
CO₂の分離・回収技術にはまだコスト面でのハードルがあり、大量処理を行うには相当な投資が必要です。 - 安全性・リスク
地下に高圧で注入されたCO₂が、地震などを機に漏れ出すリスクがゼロとは言えません。長期的なモニタリング体制の充実が不可欠です。 - 経済性の確保
CO₂の分離回収は大量のエネルギーを要し、輸送や貯留にもコストがかかります。公的な助成や炭素価格の導入、CCUSでの有効利用などが進まなければ、事業としての採算性は依然として厳しい面があります。 - 社会的合意形成
地元住民や漁業関係者、環境団体などとの対話を十分に行い、不安や疑問に対応するプロセスが求められます。大規模インフラプロジェクトには、常にコミュニケーションが不可欠です。
11. 脱炭素に向けたその他の取り組み
CCSだけが脱炭素の唯一の方法ではありません。企業としては、総合的な排出削減策を検討する中で、以下のような取り組みにも目を向けましょう。
- 再生可能エネルギーの導入
太陽光発電や風力発電、バイオマス発電など、自社施設への導入やグリーン電力証書の活用により、電力使用時のCO₂排出を減らすことができます。 - 水素エネルギーへの転換
水素を燃料とする燃料電池車や工場内の燃焼プロセス転換など、CO₂フリーのエネルギー源として注目が高まっています。 - カーボンクレジット(オフセット)
自社で削減しきれない排出分を、森林保護や他の地域の再生可能エネルギープロジェクトへの投資を通じて“オフセット”する仕組みです。国内ではJ-クレジット制度などがあります。 - 省エネルギー施策
設備更新や建物の断熱性向上、照明・空調の高効率化、スマートグリッド技術の導入など、地道な省エネ努力も重要です。
12. 今からできること―情報収集・社内啓発・戦略的検討
企業の環境対応やCSR、SDGs推進者は、以下のステップを踏むことで、CCSやその他の脱炭素技術を活用しやすい土壌を整えられるでしょう。
- 最新情報のキャッチアップ
国や自治体、関連業界団体が発信するCCSの進捗や補助金情報などを定期的にチェックしましょう。苫小牧市の事例や同業他社の事例も参考になります。 - 社内啓発・トップへの説明
CCSや脱炭素がなぜ重要なのかをわかりやすくまとめ、経営層や各部門の協力を得られるよう説明を準備します。トップダウンの理解が得られれば、プロジェクトがスムーズに進みやすくなります。 - カーボンフットプリントの把握
自社のCO₂排出実態(スコープ1, 2, 3)を把握し、どの程度削減しなければいけないか、どの部署・工程で削減余地があるのかを明確にします。 - 具体的なロードマップ策定
自社の目標(例:2030年にCO₂排出を50%削減)に向けて、再エネ導入、設備投資、CCS活用のタイミングなどを盛り込んだロードマップを作成します。
13. まとめ―苫小牧の動きが日本の脱炭素を加速させる
北海道苫小牧市沖が全国初のCCS特定区域に指定される方針となったことは、日本の脱炭素施策において非常に大きなトピックです。
- CCS(Carbon Capture and Storage)は、CO₂を大気中に放出する前に回収し、地下深くに貯留する技術。
- 苫小牧市は、2010年代からの大規模実証実験で多くの実績を積んでおり、今回の特定区域指定でさらに事業化の道が開かれる。
- 企業にとっては、CCSを活用することで排出量削減が可能になり、ESG投資や炭素税などへの対応が有利に。
- 地域としては、CCS関連産業の集積による雇用創出や地域活性化が見込まれる。
日本全体でカーボンニュートラルを目指す上で、再生可能エネルギーや省エネ、水素利用などとあわせてCCSが普及すれば、温室効果ガス削減が一段と加速する可能性があります。特に苫小牧の成功事例が、全国各地への展開の呼び水となることでしょう。
14. 脱炭素相談は株式会社totokaへ
ここまでCCSを中心に、苫小牧の取り組みや企業が押さえておきたいポイントをご紹介してきました。とはいえ、実際に自社のCO₂排出を削減するためには、自社の現状分析から具体的な計画作成、各種技術の選定、費用対効果の試算など、多角的な検討が必要です。
まずは気軽に相談してみましょう
企業が脱炭素化を進めるには、現状把握→目標設定→計画策定→実行→検証のプロセスが欠かせません。一度にすべてを整えようとするのではなく、信頼できるパートナーと一緒に段階的に進めていくことで、コストもリスクも軽減できます。
- 「そもそも社内のCO₂排出量を把握していない」
- 「再生可能エネルギーの導入に興味はあるが、費用や効果が分からない」
- 「脱炭素に取り組みたいが、社内理解をどう得ればいいのか困っている」
こうした悩みをお持ちなら、まずは株式会社totokaにご相談ください。最適なロードマップづくりをサポートし、道内企業ならではのメリットを最大限に活かしながら、脱炭素社会に向けた一歩を踏み出すお手伝いをしてもらえます。
15. さいごに
今後、苫小牧市のCCS特定区域指定をきっかけに、北海道内の脱炭素の動きはさらに活発化すると見込まれます。各企業にとっては、環境経営の重要性がますます高まる中で、いかに情報を収集し、適切なパートナーと協力できるかが鍵となるでしょう。
CCSはもちろん、再生可能エネルギーや省エネ、排出量取引など、企業が取り組むべき施策は多岐にわたります。そのすべてを自社単独で進めるのは大変ですが、専門のコンサルタントや地域のノウハウを持つ企業と連携することで、より実践的で成果の出やすい計画を立てることが可能です。
ぜひ、今回の苫小牧でのニュースを「脱炭素に本腰を入れるチャンス」と捉え、具体的な計画作りをスタートしてみてください。北海道の企業なら、まずは株式会社totokaのような地元密着型のコンサルタントに気軽に相談するのが近道です。
環境問題は待ったなしの状況ですが、新たな技術や制度のサポートによって、企業活動と両立させることは十分に可能です。日本の未来、そして地球の未来のために、皆さんも一緒に脱炭素へ向けた行動を始めてみませんか?