近年、気候変動問題への関心が高まる中、航空分野でも地球環境に優しいエネルギー源が強く求められています。日本国内のなかでも、広大な面積と豊かな自然を持つ 北海道 は観光客やビジネス需要が多く、国内外へ飛行機移動する機会も少なくありません。そのような背景において、環境負荷を削減するための鍵として注目されるのが 「持続可能な航空燃料(SAF)」 です。本記事では、SAFの基本的な仕組みやメリット・デメリット、製造方法などをわかりやすく解説し、北海道の企業がどのように活用や参画できるのかを探っていきます。
1. SAFとは何か?
SAF(Sustainable Aviation Fuel) とは、バイオマスや廃食油、都市ゴミなどの再生可能資源を利用した、持続可能性の高い航空燃料です。従来の化石燃料と比較して、ライフサイクル全体のCO₂排出量を大幅に削減できる可能性があるとされています。
炭素循環の視点
バイオマス由来の原料は、成長段階でCO₂を吸収しており、燃焼時に排出されるCO₂とほぼ相殺しやすいと見なされます。
再生可能な原料を活用
短期的に再生できる植物や廃油を使うことで、化石燃料のように枯渇リスクがないと考えられています。
2. SAF導入の背景と必要性~北海道における視点~
航空業界は世界のCO₂排出量のうち 約2~3% を占めているといわれます。国際的な移動が増えるにつれ、その割合が拡大する可能性があり、業界全体での排出量抑制が急務となっています。
国際的な取り組み
- ICAO(国際民間航空機関)のCORSIA
2020年以降の国際線からのCO₂排出量増加を抑制する取り組みで、SAFの導入が強く推奨されています。
北海道企業への影響
また、廃棄物やバイオマス資源が豊富な地域特性があり、原料供給サイドでのビジネスチャンスも見込まれます。北海道は国内外からの観光客数が多く、道内企業のビジネスも国内外に広がっています。
本州・海外への移動が多い企業では、フライト時のCO₂排出量削減策としてSAFやカーボンオフセットへの関心が高まっています。
3. SAFの原料と製造方法
SAF は主に以下のような再生可能資源から製造されます。
- バイオマス
- 製材廃材や紙ごみなど。ガス化して合成燃料に転換する技術が活用されます。
- 廃食油(Used Cooking Oil)
- 飲食店や家庭で利用された廃油を回収して精製する。北海道内でも飲食関連の産業が盛んなため、原料回収の可能性があります。
- 都市ゴミ
- 有機物を含む一般廃棄物。ガス化などのプロセスを通じて燃料化が可能。
- 藻類
- 微細藻類から油脂を抽出し、ジェット燃料へ転換する研究が進行中。
代表的な製法
水素化処理(HEFA)
植物油や廃食油などを水素化処理し、ジェット燃料へと変換する。実用化が比較的進んでいるプロセス。
フィッシャー・トロプシュ法(FT合成法)
原料をガス化(CO + H₂)後、触媒反応で液体燃料を合成。
4. SAFのメリットとデメリット
メリット
- CO₂排出量の大幅削減
ライフサイクルベースで最大8割ほどの削減が可能との報告も。 - 国内エネルギー自給率の向上
これまで廃棄されていた資源を有効活用し、化石燃料依存度を下げる。 - 既存インフラとの互換性
従来のジェット燃料に混合して使えるため、空港施設や航空機エンジンの大規模改修を必要としない。
デメリット
- 価格面の課題
製造コストが依然として高く、普及の大きな障壁となっている。 - 供給量の限定
原料確保や製造能力の不足により、大規模な需要を満たすには時間が必要。 - 原料競合の懸念
バイオ燃料生産が食料生産と競合する可能性。サステナブルな調達体系の構築が課題。
5. 各航空会社の取り組みと北海道へのインパクト
日本航空(JAL)・全日空(ANA)
- 2030年までに燃料の10%をSAFへ置き換える 目標を掲げる。
- 実験的に一部便でSAFを導入しており、北海道便にも将来的に波及する可能性大。
ルフトハンザドイツ航空
- 一部路線でのSAFオプションを提供。ヨーロッパ圏からの北海道観光客が増える場合、今後の環境アピールに。
ユナイテッド航空
- SAF開発企業と長期契約。国際便の多い大手キャリアとして、北海道路線への適用も視野に。
北海道企業へのメリット
バイオマス活用ビジネス
廃材・廃油・ゴミなどを原料とする SAF のサプライチェーンに参画するチャンスがある。
ブランドイメージ向上
自社の出張や輸送にSAF導入便を活用することで、環境配慮の姿勢をアピール可能。
6. 結論と未来展望~北海道企業にできること~
SAFは、従来の化石燃料に代わる有力な選択肢として注目を集めています。とりわけ北海道のように資源が豊富な地域においては、原料調達面でも優位性を発揮できる可能性が高く、企業経営へのプラス要素となりえます。しかし、価格や供給量の問題、原料確保の課題は依然として残されています。
北海道企業が注力すべきポイント
- 情報収集とパートナーシップ
- 道内外の航空会社・燃料メーカー・自治体と連携し、最新動向や補助金制度をチェック。
- 廃食油や廃棄物の有効利用
- 飲食関連事業や自治体との協力で原料確保を進める。ビジネスチャンス創出の可能性。
- 持続可能な調達の確立
- バイオマスやゴミをSAFの原料にする際、地元の農業・林業・廃棄物処理プロセスとの連携を重視。
- 企業ブランディング
- 自社の環境配慮アピールとして、出張や貨物輸送にSAFを積極的に検討する。
まとめ
北海道の企業にとって、SAF(持続可能な航空燃料)の導入・普及は「環境対策」と「新たなビジネス機会」の両面において大きな意義を持ちます。観光大国でもある北海道は、国内外へ航空での移動が頻繁なうえ、廃棄物やバイオマス資源が豊富に存在する地域として、SAFのサプライチェーンの一翼を担う可能性があります。価格や供給量などの課題はあるものの、国際的なトレンドと整合し、長期的に取り組むことで競争力強化にもつながるでしょう。
もし「自社の環境負荷を減らしたい」「SAFサプライチェーンに参画したい」というお考えがある場合は、北海道内外の航空会社や燃料メーカー、自治体が実施しているプロジェクトへの情報収集・連携をぜひ検討してみてください。脱炭素社会に向け、北海道の企業が新たな一歩を踏み出すチャンスです。